2026/05/15 22:35





■ 「天然酵母でパンを焼く」のはパン屋のロマンだから…!




「天然酵母でパンを焼ける職人は凄い!」
「どれだけ技術力をあげればそこまでになれるんだ…」
「自分も腕を上げていつかは…!」



今や、そうあることが当たり前かのように「天然酵母」「自家製酵母」を掲げるパン屋が多いので、
今の時代にはもうそんなことはないのかもしれませんが、
20年~30年前くらいの時代にはそんな尊敬と憧れみたいなものが正直ありました。(…ですよね?(笑))


修行時代は、もちろん修行の身でもあったので、
「イースト」メインで焼くのも大変だったのに、天然酵母となると一体どうなるんだ…?
それを扱えてる職人は相当に腕があるんだろう…みたいな、
漠然とした「職人の格好良さ」のイメージをもっていました。



いつか一人前になったら自分も…!と密かに胸に抱えながらも、
いざ独立すると、お店の運営と安定した商品の提供とお客様のご要望に応えることを優先するのでいっぱいで、
自家培養の酵母のみで焼くだなんてとても踏み切れず、自家製酵母(レーズン種)と海洋酵母(パン酵母)を併用して焼いていました。


とは言っても、憧れはいつまでも胸にあるので、
自分もやってみたい。


新しいパン屋さんがどんどん出てくると、どうしても差別化したくなるし…職人としてのプライドもある。


でも今にして思えば、当時の酵母に対する知識は稚拙なもので、
そもそも天然酵母の区別すらついていなかったと思います。



■ パンの可能性を広げてくれた「ホシノ天然酵母」と「白神こだま酵母」




発酵種製品を使ってみたら可能なのだろうかと手に取ってみたのが「ホシノ天然酵母」。

これがなかなかコツを掴むまでは大変。
初めは思うように焼けなくて。
何度も何度も経験を重ねていくことで、全ての種類の商品を焼けるところにまでいけた。

そして、これがまたホシノ天然酵母の良いところで、香りが物凄く良かった!
焼き上がったパンを口に入れた後の、鼻に抜けていく芳醇な香り。


酵母が変わるだけでこんなにもパンは変わるのか!と、感動を覚えたものです。


その後、全ての商品をホシノ天然酵母で焼くことにも慣れてくると、今度はまた新たなものにチャレンジしてみたくなるもので。


違う酵母に変えたら今度はどんな変化があるんだろうか?と、次に使ったのは「白神こだま酵母」


ホシノ天然酵母を乗り越えた後のこれは、正直扱いやすかった。
感覚としてはイースト(パン酵母)と変わらないくらい生地の保水性が高く伸びが良くなることで作業性もよく、安定したパンづくりができた。


…そうなると、今度は違う欲みたいなものが出てくるのと、
その安定に収まって満足できるのか?
これだけいろいろ使って作れるようになってる今なら、自家培養酵母でもできるのでは…?
と、思ったのが今の自家培養酵母100%でのパンづくりの始まりとなりました。




■ 「自家培養酵母」のみでパンを焼く




レーズン種なら過去に作っていた。
今なら当時よりもっと出来るようになってるはず!


と、取り組み出したものの、もう全然上手くいかない。

レーズン酵母だけなら、発酵力が弱いからな…みたいに思い込もうとしたけど、
過去に焼いていたものは、併用していた海洋酵母(パン酵母)の発酵力にレーズン酵母の風味を加えていただけで、
レーズン酵母の発酵力で焼いていたわけではなかった。



それに気付いてからは、どうにかレーズン酵母を育てあげることに集中して、
そのおかげで酵母についてもいろいろと学ぶことができ、
それがまた新たな発見と面白さを見つけて夢中になりました(笑)



毎日毎日、酵母の様子を眺めては


今日の温度ではちょっと弱そう…?
→発酵力が足りないな。


今日は逆に温度が高すぎるのか…。
→発酵力があるかと思ったけど生地がダレてるな…。


これくらいなら酵母は多分いけそうだな。…あぁ、そんなに甘くないのか…。
→今度は酸味が強いな。



毎回毎回、酵母菌が出してくるものが違う。

それは言い換えれば、こちらがどう酵母菌に接するかで酵母菌が出してくるもの(結果)が変わる。



それにすっかり魅了されて続けていくうちに、
焼きあがったパンを噛み締めながら、
じわじわと感じる甘みや軽やかな酸味、奥が深い香りなどを
舌先で探すように楽しめるようになっていました。



安定した商品を提供することは、商売をする上でとても大事なことであることはわかっている。
けれども、この毎回違う顔を見せてくる酵母の面白さと旨味を提供できるなら、
それはまたお客様にとっても自分にとっても良い事ではないか…?


そして、ここまでいくと、この楽しさと面白さを捨てて安定に戻れるか…?
どうせなら、このままもっと追求してやれるところまでやってみたい。
作れる数や商品数は減るだろうから、お客様にはがっかりさせるかもしれない。


でも、職人としては自分にしか焼けないパンを作りたい。


だって、


■ 「自家培養酵母のみでパンを焼く」ことができるから!




せっかく、酵母のみで多種類のパンを焼けるようになったのに、
そこにイーストやホシノ天然酵母、白神こだま酵母を混ぜることは、
応えてくれている酵母菌に対するちょっとした裏切りのような…
確実性を求めて安定させるためにイーストなどの力を借りるのは、
まるで酵母菌を信頼していないかのような……(笑)


単純に、酵母菌がちゃんと育ってるのかどうかがわからなくなるっていうのが大きいです。


液おこしが7日~、種おこしがさらに3日~、生地にして焼けるまでに2日~と、
最低でも12日間は必要とします。


パンになるまでにかなりの時間がかかるけれど、じっくりと手間暇をかければ
発酵力、甘み、芳醇な香りに、しっとり、もっちり食感も酵母菌は表現してくれます。

なので、他の酵母と混ぜる必要がない…というより、うちの酵母たちの凄さを見せつけたいのです(笑)





>それぞれの酵母には、それぞれの役割と良さがあります。

>どれが優れているかという単純な優劣の話ではなく、当店ではこの「手はかかるけれど奥の深い風味」に魅了されて、この道を選んでいます。



と、お伝えしました。正直に言うと





■ 魅了されて戻れなくなってしまった





が、正しいのです(笑)





その酵母菌が生み出す美味しさの魅力をぜひ、お伝えできればなと思います。