2026/05/18 22:20






「レーズン種だけですか?」


「ルヴァン種ではやってないんですか?」


「え?じゃあ、カンパーニュはルヴァン種じゃないんですか…?」



そんな質問をたまに受けます。



■ はい、当店はレーズン種のみです。



そうお答えすると、なんだかちょっとがっかりされるような、

お客様のテンションが落ちてるような感じがあるような気がします。

(ただの被害妄想かもしれません。笑)




いや、わかります。


「自家培養発酵種100%のみ」と掲げていると、

「酵母菌を使役してます!」感が出てるように感じますからね。


「さぞや、このお店は多種多様な酵母を使い分けてるだろう!」


みたいな期待値を上げてしまっているのかもしれません。




そりゃ、やりたいです。



「レーズン種からルヴァン種、サワー種に季節の果実からも採取した、

当店では多種多様な酵母を使い分けてパン作りをしています。」



って、言ってみたいし、

言えたらめちゃくちゃカッコいいじゃないですか(笑)




ただ、ハード系から食パン系、クロワッサン系にベーグル系にと、

お店の全ての商品をレーズン種で焼けるようにはなっても、この酵母を知り尽くした訳ではないのと、

種類が増えればそれだけ管理も大変になるし、

まだ自分はそんな多種多様な酵母を扱える域には達していない

と、思っているのが本当のところです。(いつかはやりたい気持ちもあります!)



ただ、ここで終わってしまうと、

「レーズン種なら大したことないのか?」

と思われそうなので、ここからはレーズン種がどれだけ素晴らしいかをプレゼンしていきます(笑)



■ レーズン酵母はただの初心者向けだと思っていませんか?




おそらく、一般的な認識として


「初心者が酵母作りにチャレンジするにはまずはレーズン種がオススメ」


このような導入がほとんどなので、

「レーズン種 = 初心者向け」という認識が定着していると思います。


もちろん、これ自体は誤りではなく正しいです。


では、なぜレーズン種が初心者にオススメできるのか?を深堀りしていくと、



①高い糖度

レーズンがそもそも糖度が高い上にドライ(乾燥)させることで水分が抜け糖分が凝縮され、

酵母菌が活動するためのエサ(糖分)が豊富にある。


② 水分活性が低いから雑菌が繁殖しにくい

ドライ(乾燥)させることにより、雑菌が利用できる水分が抜けるため、雑菌が繁殖しにくく、

天日干しすることで皮が硬くなり雑菌の侵入も防いでいる。


③ 強い発酵力

レーズンの表面には大量に眠っている酵母菌が付着しており、水に浸けることで凝縮された糖分をエサに大増殖をし、

雑菌の苦手とする酸性環境を構築することで雑菌の動きを封じ込め、

なおかつ微量のアルコールも生成することから殺菌剤としても働いてくれる。

それにより、安定して増殖を続けられるので強い発酵力を持つ元気な酵母菌がたくさん増える。


④ 甘みとフルーティーな香り

凝縮されたレーズン本来の甘みと旨味から、

酵母が糖を分解してアルコールを生成する際にフルーティーな香りの元となる「エステル」を発生させ、

そのほかの有機酸も発酵により香りに変化を与え、焼きあがったパンに独特な深みと芳醇な香りを与えてくれる。


⑤ 通年手に入れやすく、日持ちもする (商売にはこれも大事)

オールシーズンで手に入れやすく、ドライなのでカビにくく腐敗もしにくいので、日持ちもする。



まぁ、それっぽく説明するとこんな感じなのですが、


わかりやすくざっと説明するなら、



① 乾燥したレーズンには大量の酵母菌が眠っている

② レーズンを水に漬けると、凝縮された糖分をエサに一気に酵母菌が活性化して大量に増える

③ 元々元気な酵母菌が一気に仲間を増やせるので、雑菌を抑え込める

④ 先住民として占拠した酵母菌たちが安定して活動できるため、仲間を増やしながら香りの元になる香気成分を作ったりして変化していく

⑤ たくさんの酵母菌がいるので発酵力も安定性も高く、雑菌も少ないことから失敗しにくいパン作りができる



と、こんな感じです。やはりレーズン種は素晴らしい!(笑)



■ それなら、レーズン種は簡単なのか?



これは正直、人によると思います。


簡単だよ、と言える人もいれば、

レーズン種も難しい、と言う人もいます。


それこそ、多種多様な酵母菌を使い分けてる方にすれば、おそらく扱いやすい酵母菌でしょう。



自分の中ではこれです。



■ 「難しい、とまでは言わないけれど、簡単だよ、とも言えない」




まぁ……「自家培養発酵種のみでやろう!」と試作に取り組んだ初期に返り討ちにあったので……(笑)



そこで、それまでの自分の職人としての技術力を支えていたのは酵母(イースト)だったと気付けたこと、

ならば自分はどこまでできるんだろうか?という職人としてのプライドと、

本来の酵母菌の力とはどれくらいのものなのか?


という好奇心などから、一旦全てを捨てて、

一から教えてもらう気持ちでレーズン酵母からいろいろと学びました。



まずは、酵母菌でも作りやすいとされているハード系から試作を初めて、

初めこそ、発酵しないことや酸味が強すぎることなど失敗も重ねたものの、

その失敗があったからこそ上手く焼けた日の喜びはより一層嬉しいもので。


そして、噛むほどにじわじわと出てくる奥深い味わいと複雑な香り……これを出せるのが酵母なのか!!


と、酵母が生み出す新たな可能性に、すっかり夢中になってしまいました(笑)



そうなると、一般的に自家培養発酵種では発酵力が足りないとされていたのは、どこまでのことを言うのだろうか?

糖分の高い菓子パン生地や、バターたっぷりのクロワッサン生地などは苦手だという認識だったけど、

こんなに力もあって元気なのに…?と新たな疑問が生まれました。



その頃にはもうすっかり酵母たちに心を奪われていたので、


いやいやいや、うちの酵母ならいけるのでは…?


と、酵母たちがどこまで応えてくれるのか、

それによって自分のパンがどう変化していくのか、



何よりうちの酵母はきっと凄い!



みたいな、ちょっとした親バカのような心境で(笑)

次々と試作を繰り返していきました。


食パン生地は、ふんわりもっちり感はもちろん、

しっとりした食感とほのかな甘み、噛みながら舌で微かに感じる酸味や香りを探すように食べるのも楽しい。


クロワッサン生地は、よつ葉バターの旨味を堪能してほしかったのと、

お菓子のような軽いクロワッサンではなく、噛んで美味しさを楽しんでもらいたいというのが元々のコンセプトで、卵を配合せずに作っていた生地だからか、

より外側はザクッと、中はもっちりしっとり。

バターの香りと旨味が溢れ出すような、噛めば噛むほどにジュワっと広がっていくような贅沢な食感に。


ベーグル生地は、それまでにいろいろと生地の配合を変えたりもしていたけれど、

酵母を引き立たせる為に敢えてシンプルな配合にすることで、

小麦の旨味と香りを噛みしめられるものに。


フランス生地は、酵母に合わせるために小麦粉も見直し、配合も調整したことで

外側はバリッとしながらも歯切れの良さと中はしっとり、噛めば噛むほどにもちもちした食感と香ばしさを楽しめる。



「小麦ってやっぱり美味いよなぁ…」って、食べながらついこぼれてしまうような、

そんなパンを焼けているのではないかな、と思います。




…ちょっと自画自賛が過ぎたかもしれません(笑)

凄いのはレーズン種です。

酵母なくしてこの味わいは引き出せないです…。


そんな美味しさを支えているのはなんと言っても

「レーズン種」のポテンシャルが高いからです!




■ つまり、「レーズン種」はやっぱり凄い!



控えめに言ってもやっぱりポテンシャルが高いので、

初心者にオススメというのはわかります。


ただ、じゃあ酵母を置き換えるだけでいろいろなパンを作れるのか?と聞かれれば、

答えは「ノー」です。



ざーっと書いたので、簡単そうに見えたかもしれませんが、

どの生地も自家培養のレーズン酵母のみでやるために、

配合のバランス、製法、ミキシング、パンチ入れ、ベンチタイムなど、

全部の工程を細かく見直して調整しています。



小麦粉などの原材料自体を変えてみたりと、

自分が納得できるパンづくりができるように酵母と向き合って、

酵母の良さをどこまで引き出せるのかを追求し続けて今に至っていますが、

それでもまだレーズン種では出来ていないものも正直あります。



自分のお店を構え、それなりに職人として長くやってきたつもりでも、

知らない世界がまだまだあったこと。

未だに新たな発見や感動、面白さを見つけられること。

その面白さを、パンを通してお客様にもお渡ししたい。



本当は、いろいろな酵母も試してみたいし、作ってみたいパンもまだたくさんあります。


ただ、レーズン種のみでそれらを表しきれていない自分はまだその域ではないので、

まずはレーズン種を追求し続けるのが優先かなと。


でもいつかは違ういろんな酵母も試してみたいとは思っていますが、

今はまだここが自分の職人としての現実的な位置だということです。



パンの道は沼が深い。

でも、だからこそ面白いのです(笑)







……あれ?カンパーニュの話は…?



忘れていたわけではありません。

カンパーニュも当店では、レーズン種を使っています。


このあたりは、ちょっと違う話になりそうなので、また次回のお話へ。



……食べやすいカンパーニュがあってもいいですよね?