2026/05/22 22:30

■ 天然酵母パンと聞いてイメージするものは?
一般的に天然酵母パンと聞くと、
「身体に良さそう、自然のもの、優しい、風味が豊か」
こういったイメージから、
「硬くて、独特の酸味があって、重たいパン?」
というような、クセのあるものだというイメージを持っていらっしゃる方も
意外とまだ多いのではないでしょうか?
ここでお話していく「天然酵母パン」は、
いわゆる発酵種そのものを育ててから作るパンのことを指しています。
お店によってはいろいろと酵母の扱い方が変わったりしますが、
今回は「発酵種主体のパン」のお話として聞いていただければと思います。
■ じゃあ、実際のところはどうなのか?
例えば、前回の記事でもお話した
伝統的な製法で作るカンパーニュは、
外側はバリっと香ばしく、中はしっとり・もっちりした比較的軽やかな食感が特徴で、
ルヴァン種特有の酸味を楽しめます。
これは昔のフランスで、限られた小麦をみんなで分け合い、長持ちさせるために
あえてライ麦を混ぜて保存性を高めた知恵から生まれたものです。
サワー種で作るドイツパンは
ライ麦と小麦の配合比率によって食感が大きく変わります。
小麦の比率が多ければボリュームが出てしっとりした食感となり、
ライ麦の比率が高くなるほど目が詰まったずっしり重い食感となりますが、噛むほどに深い酸味と旨味を楽しめます。
こちらの背景には、小麦が育たない環境でライ麦が主流にならざるを得なかった歴史があり、
その主食を美味しく安全に食べるために酸味が不可欠だったのです。
つまり、どちらのパンも
厳しい環境を生き抜くための先人たちの知恵と工夫から生まれた伝統の味わいとなるもので、
こういった背景を知ると、酸味にも理由があって、
天然酵母パンのイメージがそうなった理由も少し見えてきますよね。
ただ、みなさんが気になっているのは、
■ それ以外のフランスパンやクロワッサン、食パンやその他のパンまで全部がそうなのか?
と、いうところではないでしょうか?
このあたりは、お店によって「どのようなパンを作るのか」、で変わってくるかと思うのですが、
クロワッサンや食パンなどは、先にお話したカンパーニュやドイツパンのような
ライ麦の酸味や硬さ、ずっしり感を全面に押し出すような配合などにはしていないのではないかなと思います。
でも、酸味があることが天然酵母の証!
みたいなイメージも、ネット情報なんかではよく見かけます。
もちろん、野生の酵母菌と共生している乳酸菌や酢酸菌などのおかげで
酸味として楽しむことは出来ますが、
この酸味の度合いって、本当に人それぞれ違うんですよね。
※ これはあくまでも個人的な好みの話となりますが、
「この酸味が美味しい!」
とされていても、例えば強い酸味が苦手な自分には、
「美味しいの前に酸味がキツいな…食べにくいな…」って感じてしまう。
「慣れたら美味しく食べられるようになるよ。」
みたいに言ってくださる方もいらっしゃるでしょうが、
(もちろんそれは善意からのお言葉なのですが)
…慣れるまでそんなに頑張らないといけないのかぁ……それなら……
と、敬遠してしまうようになるんじゃないかなぁと。
ライ麦パンも食べたい。
自家培養発酵種で作るパンも食べたい。
でも強い酸味は苦手。…でも出来ればちょっと酸味も楽しんでみたい。
だから、……酸味が少し抑えてあればなぁ…。
■ なら、自分が酸味を抑えたパンを作ればいいのでは…?
天然酵母だから酸味がなければいけないんだろうか…?
もし酸味を抑えられたなら、たくさんの人に食べやすい天然酵母パンとなるのでは…?
と、自家培養発酵種のみでのパン作りに取り組む際に「酸味を抑えること」も目標とすることに。
自家培養発酵種のみでのパン作りは、
ハード系などのリーンな系統のパンでは良く見かけるけど
クロワッサンとかリッチな系統のパンまでやっているところは少ない。
多分、リッチ系は難しいんだろう…それならまずは…とフランス生地から初めてみました。
こちらの記事でも触れていますが、
初めこそ、発酵しないことや酸味が強すぎることなど失敗も重ねたものの、
噛むほどにじわじわと出てくる奥深い味わいと複雑な香り…酵母が生み出す新たな可能性に魅了され、
「自家培養発酵種では発酵力が足りないとされていたのは、どこまでのことを言うのだろうか?」
「糖分の高い菓子パン生地や、バターたっぷりのクロワッサン生地などは苦手だと思っていたけど、
こんなに力もあって元気ならいけるんじゃないのか…?」
と、疑問を持ち始めました。
出来ることなら、既に当店のパンを楽しんでもらっているお客様には、
自家培養発酵種のみになったとしても、そのまま楽しんでもらえるパンにしたい。
欲張るなら、「天然酵母パンを食べたいけど酸味があるっていうのがネックだなぁ…」と、
今まで躊躇ってきた人にも試してもらいたい!
「天然酵母パン=硬くてずっしり重くて、酸味があるもの」というイメージから脱却できるものを目指したい。
■ 天然酵母だけど、天然酵母らしくないパンを作りたい!
と、無謀ながらもさらなる高みを目指しリッチ系にも挑戦していき、
食パン生地は、
ふんわりもっちり感はもちろん、しっとりした食感とほのかな甘み、
噛みながら舌で微かに感じる酸味や香りを探すように食べるのも楽しめるものに。
クロワッサン生地は、
よつ葉バターの旨味を堪能してほしかったのと、
お菓子のような軽いクロワッサンではなく、噛んで美味しさを楽しんでもらいたいというのが元々のコンセプトで、
卵を配合せずに作っていた生地だからか、より外側はザクッと、中はもっちりしっとり。
バターの香りと旨味が溢れ出すような、噛めば噛むほどにジュワっと広がっていくような贅沢な食感に。
…やった…!!
酸味を抑えて食べやすく、なおかつ酵母特有の複雑な香りと奥行きのある味わいを楽しめる、
「天然酵母だけど、天然酵母らしくないパン」が作れた…!
これなら、酸味が苦手な人でも食べやすく、
酵母の味わいや香り、小麦の美味しさも楽しんでもらえるはず!
と、自信満々でSNSなどでアピールをしていると、
それらを知り、その天然酵母パンを目当てにご来店くださったお客様から、
「……天然酵母らしくないパンですね」
と。
(思っているものと違うな…?)と言ったニュアンスは感じとったものの、
その場では真意まで深く確認はできず…。
その後も、同じような反応をされる方がチラホラ……。
もしかして、
好みの話でもあるけれど、既に食べ慣れている人からすれば当店が脱却を目指した
「天然酵母だけど、天然酵母らしくないパン」は、
逆にその人たちが「知っている天然酵母らしくないパン」になるのか…?
まさか、「天然酵母ではない、一般的なパン」と同等くらいの認識になるなんて……。
どうすれば伝えることができるのか、が
今一番の悩みかもしれません(笑)
