2026/06/09 09:39





前回のあらすじ



厳しい修業時代で自信をつけて独立したものの、

地域の方から

「バゲットが硬すぎて口の中が切れる!」

という声が届き始めました。



お客様視点での困り事から伝えてくれているんだということはわかってはいたものの、


「バゲットはそんなもんだろう、何を言ってるんだ。」


くらいに当初は思っておりました。



それに、あの厳しかった先輩にも褒められたくらいだから、

自分の作るバゲットが「正解」なのだと。



でも、できる限り改善はしてみようと思い、

配合を変えたり、水分量を増やしてみたりとするものの、

既にそのバゲットが正解の基準となっているから、そこから大きく変わることは出来なくて。



このバゲットを「バリッとして香ばしさもあって美味しい」と言ってくれるお客様もいる。

だから、やっぱり間違ってない。

ただ、合わない人には合わないだけだ。



と、思うことで目を逸らし、心のどこかで仕方ないと言い聞かせることで、

自分の技術だとか経験だとか、そういった自分自身の未熟さに、

その時はまだ素直に向き合えなかったのだと思います。




■ その後、結婚して子供も産まれ、月日が過ぎたある日のこと。




その頃には、

「クラスト(外皮)が薄めの食べやすいバゲット」を見かけることも多くなりました。



自分の好みだからでもあるのですが、

「バゲットとかのハード系は硬くてバリバリ食べるのが良いんじゃないか」

と、薄皮バゲットに対してちょっと否定的に捉えていました。



それをそのまま家族にも話すと、



「いや?硬すぎるより薄皮のほうが食べやすいよ。

すぐ食べるならそれが美味しいけど、だいたいは明日食べるから。

で、食べる前に焼き直すから、元が硬く仕上がってるよりも、

薄皮でちょっと浅めに仕上げてくれてるほうがちょうど良かったりする」



同意を得られると思っていたのでちょっと予想外の反応に、


(どうせ焼き直すなら今のうちの店のバゲットで良くないか?)


と、内心では反論しながらも「ふ~ん」とだけ返事を返し、

歯もしっかり生えてきたから食べられるだろうと子供にバゲットをあげる仕草を見せると、



まさかの全力拒否!



何なら差し出したこちらの手をパシッと払いのけて、全身で怒り出す始末…



(…え、パンは好きなのになんで??)



と、少しショックを感じながらも理由を聞くと、

以前食べた際に、噛んでるうちに砕けた外皮が口の中にちょっとあたったらしく、

それ以降は口にしなくなったとのこと。

怪我をしたわけではないけど、それは不快だと記憶され避けるようになったと。



(……えぇ…そんなことで???)



と、自分にはそれは難なく食べることができるものだからついそう思ったものの、

めちゃくちゃ嫌そうな顔を見せてくる子供を目の前にして、


(そうか…美味しい以前に、食べることへの不快感や怖さを感じることがあるのか…)


と、そこで初めて「硬い」と伝えてくれていたお客様の言葉の本当の意味がやっとわかった気がしました。




とは気付けたものの、どうしたものか…




これは今だから言えることではありますが、

当時は小麦粉自体を変えるっていう発想にはならなかったんですよね。



配合を変えると言っても、

ブレンドしている粉の比率を変えるだとか、

塩や水分量を調整するとか、

ただ単に焼き加減を浅くするだけとか、

そういったその時に自分がもっているものの中でジタバタするだけで、

新たな粉でチャレンジをしようという発想にはならなかった。



だって、下手に触って焼けなくなるのは怖いですからね(笑)



そんな感じでどこか引っかかったまま日々が過ぎ…



ターニングポイントとなったのはやはり

「自家培養発酵種(レーズン種)」との出逢い!!




もちろん、酵母たちとは悪戦苦闘を繰り広げました(笑)



でも、ちゃんと育てることが出来て焼き上がったバゲットは、


「今までとは明らかに違うクラム(中身)のモチモチした食感…!

酵母が変わるだけでこんなに変わるのか…!」


と。そしてひとしきり感動した後にふと、



…酵母でこんなに変わるなら、小麦粉を変えたらどうなるんだ?と。



もしかしたら、酵母により合う小麦粉もあるのかもしれない…




そう思うとすぐさま、卸業者さんが取り扱ってる小麦粉を取り寄せ一つずつ試していくことに。



ただ、「国産小麦」という条件と

さらに「安定して供給されるもの」でないと、商売には困る。

(キタノカオリを使っていたものの、供給不足となり入手できなくなった時期があったりしたので)



有機小麦だと高値となりすぎて、売価を上げないといけなくなる。

バゲットは日常的に食べてほしいから売価はあまり上げたくない。



そうなると、使える候補の銘柄はそんなに多くなく…

試してみたものはどれも、現状を上回るものではなかった。



ネットなんかを通して、他にも粉はないか探してみて目に止まったのは



木田製粉さんの「ヌーベルバーグ」!



粉の説明のところに、

「フランスパンにおいては、特にクラストの軽さと薄さを表現できます。」

との記載を見つけたときは半信半疑だったのですが、

卸業者さんに取り扱いができるのか問い合わせて卸してもらい、さっそく試す。



まず、粉自体がしっとりしてる。手触りから違う。

粉の色味も少しグレーがかったような色味に見える。

生地を触っても保水性があるからなのか?手にしっとり吸いついてくるような感触…



ダメだ、どうしても焼く前から期待が大きくなってしまう(笑)



そして、窯に入れて焼き上げる……



焼き上がったバゲットは窯伸びの調整などがまだわからないため、キレイとは言えなかったが


香りはとても良い…香ばしい香りが一気に広がってる。

焼き上がったバゲット自体、持ち上げると軽く感じる。


カットして断面を見ると、やっぱり薄いグレーがかった色味に見えるけど、

これは酵母の色味も混じっているからかもしれない。


とりあえず熱いままでカットしたバゲットを頬張る。



「…!!!これだ…!」



明らかにいつものバゲットより、クラスト(外皮)が薄く食べやすい!

でも、ただ柔らかいわけではなく、ちゃんとバリッとした食感も楽しめる!



熱いままでカットしたバゲット……

せっかくだからと少しバターをのせてまた頬張る。



「はーーーっ、…美味いっ!!!」



クラストのバリバリした食感にバターがさらに旨味を足しながら口の中で溶けていく…

クラムも合わさってどんどんモチモチ感が増していく…

さらにそこにレーズン種の味わいまででてくる…

噛むほどに味わいとモチモチ感とほんのり甘味までを楽しめる…



小麦粉でこんなにも違いが出るのか…。




今までも小麦粉が変わることはあったけど、それはあくまでも似た性質の粉を選んでいただけ。

もちろん、その時その時の自分にとってはちゃんと見極めてこだわって焼いていた。

それは嘘ではない。



ただ、

「既存レシピに合う粉」であって、

「理想のパンに合う粉」を探す

ではなかったなと。



仕上がりの違いを見せてくれた小麦粉と出逢えたことは、

さらにパンづくりを面白くさせました(笑)




もう一度焼きたい。すぐにでも試してみたい。

今から仕込んだら焼けるのが夜になるけど…それでも試してみたい。


次はもっと自分が思う理想のバゲットにしたい。

それなら、粉と水分の配合の調整はして、ミキシングはもう少し時間を増やしたほうがいいか…?

一旦、配合調整だけして様子をみて試していくか?



と、頭の中はバゲットの試作のことでいっぱいになり、

時間が出来ればいろいろ試しては焼くをしばらく繰り返していく。



酵母も育てて、小麦粉などの原材料も理想のパンをイメージしてちゃんと自分で選んで、

いろいろ試作を重ねても、なかなか思ったようにはうまくいかなくて…


端から見れば四苦八苦しているように見えるでしょうけど、

これがまた たまらなく面白くてしょうがない(笑)



そして、なんとか理想に近づいたバゲットを家族にも食べてもらうと、

同じように小麦粉の違いと変化したバゲットに感動してくれる。

美味しさの感動を共有できるのは、少し心強くもある。



店頭でもいよいよ切り替えて出すと、特に常連のお客様は気づいてくれることがまた嬉しくて。



そして、

「前のも美味しかったけど、歯切れも良くなって

でも、バリッとしたハード系らしさも楽しめて、何より香りと食感が良い!」

と、わざわざメッセージまでくださる方も。そういうのにまたグッときて、



もっと、パンを美味しくしたい!



といった探求は続いていき、

美味しくなった!と思っても、

いや…まだまだ美味しく出来るんじゃないか…?

と、未だに究極的な美味しさに到達したとまでは言えず。



結局、「理想のパンづくり」への挑戦

自分が終わらせない限り、終わりはこないのです(笑)


 





そうそう💡


ご家庭でパンづくりをされる場合、多分よく使われるのは「リスドォル」とか「E65」とかでしょうか?


もし、試したことがなければぜひ一度

「ヌーベルバーグ」も試してみてほしいです!



そして、仮にリスドォルからヌーベルバーグに置き換えて焼いたとして、

初めは上手くいかなくっても、パン屋ですら初めから成功しないので大丈夫です(笑)


なので、粉がダメなんだ…と、一回の試作で切り捨てるなんてのはもったいないです!


もし、どうしても上手くご自身の理想通りにいかなかったら、

モルトパウダーなどを加えることを検討してみても良いかもしれません。