2026/06/17 19:30

前回はメロンパンの話をしたので、
そうなると次はやっぱり「あんぱん」なのかな…?と。
まぁ、タイトルから何を言い出すつもりなのか、もう察した方もいることでしょう(笑)
でも改めて思うと、現代の日本で生活してきて
「あんぱん…?何ですかそれ?」
って人、いないんじゃないでしょうか?
街行く幼児を見ればだいたいアンパンマン…
子ども用品売り場やおもちゃ屋さんにもアンパンマン…
ファミリーレストランでもアンパンマン…
キャラクターにハマったらいろいろ大変そうだ…と、出来れば避けようと思っていたはずなのに
気づけば我が子もアンパンマンだらけでした(笑)
いや本当に、あの子供を吸い寄せる吸引力の凄さ……
一体、何が子ども達をあんなに熱狂させるのか。
やはりあのフォルムか……?
子どものために必死でアンパンマンミュージアムに連れて行ったのも
今ではもう懐かしい思い出……
など、パン屋のプライベートな話なんて興味ないでしょうから、
真面目な話もちゃんとします(笑)
■ あんぱんはいつから始まったのか?
今では当たり前にある「あんぱん」
実は明治初期に西洋から日本へ伝わったパンは、
当時は「イースト(パン酵母)」が希少だったため、
「ホップ種」で焼かれていたのが主流でした。
ただ、硬くて酸味も強いパンは日本人には不人気であまり売れませんでした。
そこで、銀座「木村屋」さんが、
日本酒造りの技術である「酒種酵母」を使って
ふっくらしたパン作りに成功。
日本人に馴染みのある「あんこ」を包み込むことで、
和菓子のようにしっとりとして柔らかい、
日本独自の「あんぱん」が誕生しました。
■ 天皇陛下への献上
その翌年、明治天皇へ奈良の八重桜の塩漬けをあしらった「桜あんぱん」が献上されました。
これが大変気に入られ、宮中御用達となったことで
「あんぱん」の名は一気に全国へ広がり、
これを機に、それまで西洋の怪しい食べ物と見られていたパンが、
最先端の「文明開化の味」として一大ブームに!
■ 木村屋の成功を受け、全国にパン屋が急増
その後、ジャムパン(木村屋が開発)やクリームパン(中村屋が開発)など、
あんぱんの「菓子パン製法」をベースにした新しいパンが次々と誕生。
さらに、持ち運びしやすく腹持ちが良いことから、軍隊の携帯食や学生の間食としても普及し、
高級品から「誰もがいつでも食べられる大衆食」へと定着していきました。
と、まぁ…「あんぱん」の歴史はこんな感じです。
詳しく知りたい方はGoogle先生に聞いてみてください(笑)
しかし、本当に凄い偉業だな…。
■ やっと本題、「当店のあんぱん」の歴史
正直に懺悔をするならば、
「あんぱん」に対する自分のイメージは「ただの普通の菓子パン」でした。
それも、「高齢者の方々が好むから昔のパンでしょ」みたいな。
それまでに修行をさせてもらったパン屋は、
フランチャイズのようなチェーン店から、
最新の流行を取り入れたようなちょっと都会よりのお洒落なところだったりと、
いろいろだったんですね。
だから独立した時も、
「そこで作っていたようなオシャレなパンを焼けば喜んでもらえるはず!」と、
主にハード系とかをメインに据え、
あんぱんの扱いは
「まぁ、パン屋としてはあるものだし」
みたいな本当に軽い気持ちというか。
ところが、当時お店を出したところはのどかな地域で、
お子様から高齢者の方まで、幅広い方に利用していただいていました。
そんな中、年配のお客様から
「ここのあんぱんは大したことないな。あんこがマズい」
と。
そう、当時は血気盛んなイケイケな若僧でしたので、
カッチーン!
と、未熟なプライドに火をつけられてしまいましてね(笑)
多分、痛いところを突かれたからだと思います。
当時のあんこは、業者さんから仕入れたあんこを使っていたので。
ただ、ちょっとまた言い訳っぽくなりますが(笑)、
当時のパン屋さんで、あんこまで手作りされているところはほとんどなかったんですよ。
(もちろん、作っていた個人のパン屋さんもありましたよ)
考え方としては、「餅は餅屋へ」
みたいな、「あんこはあんこ業者さんが作ったやつを使う」みたいな、
パッケージを開けて包んでいくっていう作り方が主流だったんです。
独立する前に、カスタード作りの技術とレシピは取得していたものの
(これも当時はなかなか手作りされているところが少なくて)、
あんこまで取得するには時間が足りなくて。
でもまぁ…あんこ業者さんから仕入れたらいいか、みたいな。
「美味しいパン作りへの情熱は誰にも負けてない!」
って自負しながらも、あんぱんに対する軽い扱いを見透かされてしまったかのような。
そうなるとね、このまま言われっぱなしでは終われないので(笑)
「じゃあ、あんこも作って絶対に美味い!って言わせてやる!」
…とは言っても。
今からどこかに修行に行くわけにもいかない。
現代と違って、当時はまだネットから情報を取るなんてこともあまりできなかったので、
もうとにかくレシピを探してとりあえず炊いてみる。
でも、「あんこを炊く」という感覚がわからないから、どの状態が正解なのかも怪しい…。
とりあえず炊いてみたあんこはちゃんと甘く炊き上がった。
これを使ってあんぱんにしてみる。
「あんこ、変わった?甘過ぎるし、べちゃっとしてる」
(クッ…!……べちゃっとしてるってことはもっと水分を減らせってことか)
「今回のあんこは固すぎるわ」
(グッ…!……水分減らし過ぎたか…)
「豆の熱の入れ方にムラがあるんじゃない?所々硬いわ」
(ムラ?!……ずっと均等になるように混ぜろってことか…?)
と、指摘される度に自分なりに改善を重ねても、
またさらなる指摘で返される。
これが悔しいことにその指摘が的確でストレートにくるものだから、
小豆の扱い方
火の入れ方
炊き加減
甘さ加減
水分の飛ばし具合の調整など、
指摘をヒントにやっていくうちに、
段々と良くなってきているのがわかる。
初めこそ反骨精神でやっていたあんこ作りが、
気がつけば「どうすれば美味しくなるか」を教えてもらっているかのような不思議な関係に(笑)
そして…
「ここのあんぱん美味しいわ。あんこが美味しい」
(よしっ…!!やった!やっと美味しいって言わせた!!)
と、まるで自分だけでやり遂げたかのように当時は思っていました(笑)
その後は、そのあんこ作りも当たり前となり、
気付いたのは移転した後。
移転してしばらくした時に、
ご近所のケーキ屋のオーナーさんがご来店くださり、
購入された中にあんぱんがありました。
退店されて少しすると、戻ってこられて
「このあんこ、まさか手作りされてるんですか?!」
「そうです」とお答えすると、
「いや、あんこまで手作りされてるパン屋さん珍しいですよね。
そしてまたあんこが美味しくてビックリしてついまた戻ってきてしまいました…(笑)」
と、ものすごく評価してくださって。
職人世界では他人を素直に褒めるということはちょっとプライドが邪魔してなかなかできないので、
そのオーナーさんが珍しく (は、語弊があるな(笑))良い方なんだろう…と思っていたら、
別の日にお客様からお電話が。
「先日、そちらであんぱんを買わせていただいたんですが、
あんこはお店で作ってらっしゃるんですか?」
と。電話を受けた者が言うには、
トーンが神妙なトーンだったので何かあったのかな…?と思いながら話を聞くと、
「こんなに美味しいあんこが食べられるなんて…!って、
とても感動してしまって!
もし作ってらっしゃったらこの感動をお伝えしなきゃと思って、ついたまらずお電話を…(笑)」
と。その方は「お忙しいのにごめんなさいね」って仰ってたらしいのですが、
いやいや、そんなわざわざ美味しいって伝えてくれるなんて……
そんな電話もあるのか…と驚きが先にきてしまい、
しばらくボーゼンとしていたのですが、
だんだんと嬉しさがこみ上げてきて。
(ここでも美味しいって言ってもらえた…!)
と、嬉しさと同時に移転前のお客様たちの顔が浮かんできて。
…そうだ。あの人たちのおかげだ。
このあんこが美味しいって言ってもらえるのは、
あの人たちが教えてくれたからだ…と。
そこからは、自分の中でのあんぱんの位置はとても軽く扱えるものではなく、
今では自信をもってオススメできる商品の一つになっています。
それからも、少しずつ改良を重ねていき、
現在は「北海道産の小豆」と「甜菜糖」を使い、
甘さが強すぎると一口目がたとえ美味しく感じても、
全部食べきる頃には甘さが強調されて残ってしまうから、
甘さは少し抑えめにして、最後まで美味しく食べられるような、
そんなあんこに仕上げています。
あんこの出来事をきっかけに、
自分が美味しいパンを作っている、と思っていたけど、
もしかしたら美味しくしてくれてるのはお客様からの声があったからか…?
と、また少しパンづくりに対する向き合い方みたいなものを学べたんだと思います。
□ 職業病的な…(笑)
子どもはみんな大好き、アンパンマン!
我が子も例に漏れず、幼い頃は夢中で観ていました。
アンパンマンのピンチの場面に険しい表情で真剣に観ている我が子。
邪魔しないように隣で同じように観ていると
アンパンマンのピンチのためにジャムおじさんに知らせる仲間たち。
「よし、新しい顔を焼くよ!」
と、生地をコネコネ、あんこも炊いて、
アンパンマンの顔に成形して、窯に入れて焼いて…
アンパンマン号で駆けつけて、バタコさんが
「アンパンマン、新しい顔よ、それーー!!」
って投げるとこれまた遠くからでも奇跡的に古い顔と入れ替わり
「元気ひゃくばい!アンパンマン!!」
と物語は盛り上がる。我が子も当然キラキラした表情で興奮している。
その純真無垢な子どもの横で観ながらつい…
「…え?今から準備して間に合う…?
え?炊いたばっかりのあんこ詰めたん?
そもそもあの大きさにそんだけ詰められるか?
絶対、生地の底が重さで潰れてるよな。
え?!もう発酵できたん?
予め準備してないと無理じゃない…?
焼く火加減が強すぎてこれ焦げてへんの?
待って、あの大きさの焼きたて持ててるバタコさんスゴくない?
え、投げたで?!焼きたてあんな勢いで投げたら遠心力で潰れるって…。
いやいや、なんでそんなうまいこと当たるねん(笑)
しかも焼きたて当たったら形崩れるやん(笑)」
って言ってたところで、視線が刺さってる事に気がついて後ろを振り返ると
冷たい視線を投げかけて威圧しながら黙って首を横に振る嫁が…。
…ハイ、スミマセン……。
「でも世の中の子供たちがさ、
『アンパンマン新しい顔よ~』のノリですぐにパンが焼けると思い込んだらさぁ…」
って言ったら、
「子どもの純粋なアンパンマンの世界を壊さんでいいねん」
と、叱られてしまいました。
でもやっぱり、ジャムおじさんと同じ「パン職人」としては見過ごすことはできない(笑)
